12. オバマ 頑張れ!


昨年11月の合衆国大統領選挙において、史上初めてのアフリカ系黒人:バラク・オバマ氏が大統領に当選した。その大統領の受諾演説の中でオバマ氏は次のように言った。


「この経済危機がもたらした教訓を思い出そう。それは、メイン・ストリートの具合が悪いときにウォール・ストリートだけが繁栄することはできないという教訓である。」


ここで、メイン・ストリートとは実社会を指し、ウォール・ストリートとは金融街を指している。共産主義を掲げる国家、ソ連が崩壊して約17年、資本主義経済をひた走るアメリカ合衆国が独走するかと思いきや、調子に乗りすぎて、こちらも崩壊してしまった。


がんじがらめの官僚主義もだめなら、奔放な自由主義にも限界があることが明らかになってきた。人は痛い思いをしなければ覚えないのが常である。今回の経済危機はそういう意味の授業料となりそうだ。


また、今年1月20日の大統領就任式において、オバマ氏は次のように言った。

「公的資金を管理するものは適切に支出し、悪弊を改め、透明性のある業務を行う責任を負う。それによって初めて、国民と政府の間に不可欠な信頼を回復することが出来る」と。


 
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この発言を早速、実行に移したかのような報道が、2月6日付のデイリー読売に掲載されていた。


オバマ氏は、次のような報告を受けていた。

「ウォール・ストリートの企業は、アメリカ合衆国の金融システムが崩壊するのを防ぐために、政府からの救済資金を1900億ドルも受けているのに、2008年末に彼らが手に入れたボーナスは、180億ドルを越えていた」と。


これを聞いたオバマ氏は、手厳しく次のように言った。

「我々は皆責任を取る必要がある。そしてこれはアメリカ国民の方を向いた、主な金融会社の重役も含むのであり、通例は気前の良いボーナスを自分たちに払うような時でも、アメリカの国民が困っているときは、慎ましやかにすべきではないか」

少しは恥を知るべきだと。


そして次のように命じたのである。

「政府から緊急援助資金を受ける企業の重役の報酬は、最高で$500,000(約4500万円)に抑えるべきである」と。


つい先日も、アメリカの議会に呼ばれた、自動車業界のビッグスリー(GM、フォード、クライスラー)のトップたちが、「会社が倒産しそうだから、大至急資金を融通してほしい」と頼みに来るのに、自家用ジェット機に乗ってきたことが話題になっていた。


庶民感覚との隔たりが大きすぎるのである。これでは多くの納税者は納得できないであろう。

 
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資本論 第1部 第24章 第1節「本源的蓄積の秘密」の中に次のような一節がある。

「この本源的蓄積が経済学で演じる役割は、原罪が神学で演じる役割とほぼ同じである」。


つまり、封建主義時代から産業革命時代を経て、資本主義時代に突入する段階で、資本家が最初に蓄えた(本源的蓄積と言う)資本は、労働者をこき使って、暴力的に収奪したものである。従って、資本主義時代の始まりにおいて、資本家はキリスト教で言う「原罪」を犯していると、マルクスは言いたいのである。本源的蓄積を「原罪」に譬えるマルクスのウィットには感心もするが、これについて否定できる人はいるであろうか。


マルクスの時代は、多くがそうであったと言われても止むを得ないのが実態ではなかったか。百歩譲って、労働者から暴力的に収奪したものではないにしろ、労働者の献身的な協力がなければ、資本の本源的な蓄積は不可能であったであろう。


(但し、近年においては、ビルゲイツのように、学生時代に閃いたアイデアを元に、銀行から資本金を調達して企業を起こすことも可能であり、また労働者自らが働いてコツコツ蓄えた資本を元手に、会社を起こすことも稀ではなくなっているが。)


そのことに思いをいたすならば、資本家と言われる人々は、自分の取り分にもう少し謙虚であって良いのかもしれない。この会社は俺のものである。だから、そこから報酬をどれだけ取り上げようと、俺の勝手だ。と言うのは、傲慢のそしりを免れないであろう。「会社は労働者からの預かり物」である位の謙虚な気持ちが有ってもいいのではないか。


倫理無き資本主義は崩壊する。

先人たちの多くは、社会のために良かれと考えてやってきた。産業革命も、資本主義も、共産主義も。しかし、我々はこれまで多くのことを目の当たりに見てきた。そして、そこには自ずと「倫理・節度」が必要であることを学んだのである。


共産主義の崩壊。資本主義の暴走による、100年に1度と言われる金融危機。これらを反面教師と出来る我々は幸せかもしれない。人間に学習能力が有るのなら、我々の進むべき道は自ずと決まってくるはずだ。


オバマよ、頑張れ!


 
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