おわりに



 これで、ひとまずこの小論を終えておきたい。意を尽くしてない部分が各所にあって、読みにくかったであろうことを、読者にまずお詫び申し上げたい。

 

 私がこの小論で申し上げたかったことは次の2つである。

 第1は、マルクスが予言した共産主義社会必然論は誤りであったことの証明である。これは第一部でなされている。

 第2は、例え多くの犠牲を払って無理矢理共産主義社会にしたとしても、「共産主義社会の第一段階」における社会システムは、現代資本主義社会とほとんど変わらないものである。そして「共産主義社会のより高度の段階」は、結局、空想でしかなく、実現性はない、という事の証明である。これは第二部でなされた。

 

 私は決して、感情的な反共主義者ではない。むしろ、大学生の頃はかなり積極的に共産主義に共感を覚えていた者の一人である。しかし、こうして冷静に共産主義理論を分析した結果、以上のような結論を得たのである。これは、マルクスの言う「歴史的過程を経ての共産主義化」や、「共産主義社会のより高度の段階」の実現性はない、ということである。だからと言って、私は現代資本主義社会が、今のままで良いとは全く考えていない。むしろ積極的な改革論者のつもりである。ただ現実を否定するあまり、極端に走ることを心配するのである。

 長い間の模索を経て、人間の英智は、中道を指向し始めたようである。本著の最後に紹介したE.Fシュマッハーによる「人間復興の経済」の基本理念の一つも中道論である。

 最後に、A.トインビー著「歴史の研究」 (P.292)に、味わい深い示唆があるので紹介しておきたい。

 「かつて全く無統制だった民主主義諸国の経済の中にも明らかに不可抗の勢いで計画化が侵入しつつある事実は、すべての国の社会構造が近い将来において、国家主義であると同時に、社会主義的なものになる可能性のあることを暗示する。単に資本主義体制と共産主義体制とが肩をならべて存続するように思われるというだけではない。資本主義と共産主義とは、ほとんど違いないものに対する別の名称になりつつあるのかもしれない。」

以  上

  

 

主な参考文献

 

(1) マルクス経済学体系辞典 (第三出版)   高島善哉・越村信三郎監修

(2) 新訂図解資本論      (春秋社)     越村信三郎著

(3) 資本論学習要綱      (学習の友社)  宮川実

(4) マルクス・エンゲルス全集 (大月書店)   大内兵衛・細川嘉六監訳

(5) 資本論 @〜D       (大月書店)   大内兵衛・細川嘉六監訳

(6) 経済学入門         (青木書店)   宮川実著

(7) わが祖国           (徳間書店)   アンドレイ・サハロフ著 高橋正訳

(8) 世界の名著「歴史の研究」 (中央公論社)  トインビー著 長谷川松治改訳

(9) 見えざる革命         (ダイヤモンド社)  P.Fドラッカー著

                              佐々木実智男・上田惇生訳

(10) 賃上げと資本主義の危機 (ダイヤモンド社) A.グリン、B.サトクリフ著 平井規之訳 

(11) 人間復興の経済     (佑学社)      E.F.シュマッハー著 斉藤志郎訳

(12) 日本国勢図会       (国勢社)     矢野恒太記念会編

(13) 近代会計理論       (国元書房)    山桝忠怒著

(14) 資本論物語         (有斐閣)     杉原四郎・佐藤金三郎編

(15) 資本論の学習       (新日本新書)   金子ハルオ著

(16) マルクス経済学を学ぶ  (有斐閣)      横山正彦・金子ハルオ編

(17) 資本論と日本経済     (有斐閣)     川上正道著

(18) 資本論講義T〜W・別巻 (青木書店)    宮川実著

(19) マルクス・エンゲルス選集 (新潮社)     向坂逸郎編 

(20)  非営利会計         (中央経済社)   阪本寅蔵著



頁の先頭へ

目次へ

序文へ

HOMEへ