15. 盛者必衰 (GM倒産す)





祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色

盛者必衰の理をあらわす
奢れるものも久しからず
ただ春の夜の夢の如し
武き者も終には滅びぬ
偏に風の前の塵に同じ

        (平家物語より)



資本主義経済の象徴的存在であったGM(General Mortars Corporation)が、2009年6月1日、連邦倒産法第11条の適用を申請し、負債額1728億ドル(約16兆4100億円)を抱え、経営破綻した。この額は製造業としては世界最大である。今後はアメリカ政府が60%、カナダ政府が12%の株式を保有し、実質的にアメリカ政府により国有化され再建を目指す。


                                NZ・クライストチャーチ・モナベイル公園


GMは、どうして倒産したのか?

GMはアメリカの、そして資本主義経済を象徴するビッグな企業であったが故に、昔から何かと注目され、話題にもなってきた。GMについて書かれた著作をあげればきりがないが、幾つか例示すれば次のごとくである。


1946年、ピーター・ドラッカー著「会社という概念」

1965年、ラルフ・ネーダー著「どんな速度でも安全ではない」

1975年、J・パトリック・ライト著「晴れた日にはGMが見える」

1986年、デビッド・ハルバースタム著「覇者の驕り」

1989年、マリアン・ケラー著「GM帝国の崩壊」


これらの本の中で、GMの中に巣くう、惰性と驕慢な体質、権力闘争、非道徳、無能力等、種々指摘されてきたが、それらの警告はことごとく無視されてきた。一人の副社長、デロリアンが、会社を見放してから(1975年)、実際に倒産するまで36年間が経過している。この間にどんな努力をしてきたのか。改革のチャンスは何度もあったのに,それを生かすことが出来なかった。



1980年代、GMは前門の虎として低価格・高品質の日本車の追い上げに会い、製造コストの削減や品質の向上を目指さなければならなかったが、後門の虎としての労働組合による、待遇改善要求に合い、コスト削減が出来なくなっていた。GMは、日本車と労働組合の板挟みになり、急速にその体力を失って、マーケットシェアーを減らしていった。


気が付いた時には、消費者の石油の価格高騰による低燃費指向、環境問題を考えてのエコカー指向に逆行して、利益率の高い大型車を作り続けるしか会社存続の道はなかったのである。やがて退職者への巨額の年金や、手厚い医療費の負担から来る、多額の債務を抱え込み、債務超過に陥った。多臓器不全に陥ったGMが、今日の倒産に至ることは時間の問題であった。とどめを刺したのがアメリカのサブプライムローン問題に起因した、100年に1度と言われる経済危機である。


                              NZ・クライストチャーチ・エイボン川


GMが帝国と称されるほど、偉大であった事を考えると、今から18年前に崩壊したソ連と比べてみるのも面白い。


GMは設立(1908年)から約100年でその生涯を閉じたことになる。共産主義国・ソ連の成立(1917年)から崩壊(1991年)までの74年間に比べると、その寿命は幾分長いが、所詮50歩100歩だ。


ソ連は国有企業を民間に払い下げて民営化し、GMは全く逆に、民営企業を国有化して再生を図ることになった。ソ連は共産主義を代表する国家であり、GMは資本主義国家を象徴する巨大企業であるが、その終焉に至る経緯は何故か似ている。


1.経済的に存続不可能になった。

2.巨大組織にあぐらをかいていた。

3.時代の要請に対応できなかった。

4.官僚的になり、組織が硬直化していった。

5.人件費の上昇による、生産性の下落。


結局、本質的な問題は、共産主義か資本主義かではなく人間の煩悩の問題に帰着する。つまり、人間なら誰もが生まれながらに持っている、貪り(貪欲)、瞋恚(怒り)、痴(愚か)、慢(慢心)、疑(疑い)等の生命である。これをコントロールできない限り、どんな社会体制にしようと、根本的な変革は出来ないと仏法は説く。


また、一つの組織体の寿命は70年から100年がせいぜいと言うことで、資本主義だから、共産主義だからと言うのは副次的なことの様である。であるならば、GMが倒産したのは資本主義だからではない。其れよりももっと厳粛な事実は、どんな組織も生老病死、常住壊空は免れないと言うことだ。



                                     NZ・クライストチャーチ・植物園


マルクスの予想は、資本主義社会では、資本家による労働者に対する剰余価値の搾取がエスカレートして労働者が窮乏化し、周期的に起こる経済恐慌と相まって、共産主義革命に至る事になる。しかし、今回のGMの倒産は、その大きな要因として、従業員や退職者の高額な給与、年金等の人件費、そして医療費の負担等の福利厚生費が経営を圧迫していたことが指摘されている。これはマルクスの「万国の労働者よ、団結せよ!」のご指導宜しく、労働組合が強くなりすぎた事を物語っている。また、一部の役員には法外な役員報酬が与えられていたが、赤字に陥ったここ数年は、資本家(株主)への配当は中止されていた。


マルクスは資本論において「@不変資本の相対的増大と、A可変資本の相対的減少」により労働者が窮乏化し、やがて収奪者(資本家)が収奪される「つまり、共産主義革命に至る」であろうと予測した。しかし、GMは全く別のコ−スをたどって倒産したのである。つまり、「可変資本(人件費)の増大によるB剰余価値(利潤)の減少」によって、資本家(企業)が窮乏化して倒産した。


マルクスの剰余価値論からすれば、可変資本が増大すれば、剰余価値も増大するはずである。なぜならば、「剰余価値は可変資本からしか生じることはなく、しかも生じた剰余価値は必ずプラス」なのだから。GMの倒産は、剰余価値論の誤謬を物語っているのである。さらに、GMが倒産したからと言って、今のところ共産主義社会に移行するような雰囲気は感じられない。


不変資本、可変資本、剰余価値の増減状況を、マルクスの予測とGMの現実を図示すれば、大旨次のようになるであろう。


(資本論執筆中)

  不変資本

可変資本(賃金)

剰余価値(利潤)


(マルクスの予測)

       不変資本

可変資本

                                 剰余価値

(GMの現実は!)

 不変資本

    可変資本(賃金)

                                 剰余価値



(用語の解説)広辞苑より

@     不変資本とは:生産手段(労働用具・原料・補助材料など)の購入に支出される資本。労賃として支出される資本(可変資本)とは異なり、生産過程を通じてその価値が不変のままで生産物に移転する。

A     可変資本とは:労働力の購入に支出された資本は、生産過程でその価値の大きさを変じる。すなわち、それ自身の等価と、それ以上の超過分である剰余価値を生産するので、このように呼ぶ。

B     剰余価値とは:資本家が支払った労働力の価値(賃金)以上に、労働者によって生産された価値。企業利潤・地代・利子などの所得の源泉となるもの。



                                NZ・クライストチャーチ・リトルトン港


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